その頃の僕はフォークソングと映画に夢中だった。
ある日、ノート全面に「たくろう、たくろう、たくろう・・・・・・・」と書いてあったのを姉が見つけ、
それを僕の大好きな歌手の名前とは考えず両親に告げ口をした。
誤解が解けるまで、家族からまるで腫れ物をさわるかのように扱われることになる。
そんな日々のなかで観たのが『ジョンとメリー』だ。リバイバル上映だった。
ジョン(D・ホフマン)は酒場でメリー(M・ファーロー)と出会い、自分のアパートで一夜を共にする。
それぞれの過去の恋物語がフラッシュバックで挿入され、二人のぎこちない会話と錯綜する。やがて雨が降り出し、メリーは帰って行く。
しばらくすると、ジョンは思い立ったように彼女のあとを追いかける。立ち寄りそうな場所を探してまわるが、見つからない。
疲れ果ててアパートに戻ると、笑顔のメリーが待っていた。そこで二人は始めて名乗り合う。
『僕はジョンだ。』
『私はメリーよ。』
素敵なラストシーンだ。
「んな、アホな!もっと早う名前聞くやろ、ふつう!」と当時の僕はツッコミを入れたが、都会的でお洒落な会話・ファッション・料理・インテリアに圧倒されていた。
特にジョンのアパートは魅力的で、リビングの上に15、6畳程の中2階があり、グラッフィックデザイナーである彼の仕事場になっている。それらはラセン階段で繋がっていて、これがまたカッコ良いのだ。(僕がラセン階段を好きなのはこの映画の影響かもしれない。)
独立したらこんな仕事場にしようと永い間心に秘めていたが、未だ実現出来ずにいる。人生とはうまくいかないものだ、全く。

『卒業』で大成功を収めたD・ホフマンの主演第2作目。