前作『それでも僕はやってない』から、ついに社会派になってしまった。
クロサワといい、巨匠と言われるようになるとこういう作品を作りたくなるのだろうか。
『ファンシーダンス』では現代っ子とお寺、『シコふんじゃった』は若者と相撲、
『Shall we ダンス?』はサラリーマンと社交ダンスという、ミスマッチの生み出す軋轢とズレを巧みに笑いと感動に昇華させていた。
モダンで軽妙洒脱な若き才能の出現に拍手を送ったものだが、『それでも・・・』と今回の作品はそれらとは全く無縁の世界が広がるばかりだ。
監督お得意の念入りな取材に基づく現代的なテーマを扱っているにも拘らず、他人事の域を出ず感情移入もしかねるのは何故だろうか。
『Shall we ダンス?』を観た後、この監督はどこまでの高みに僕たちを連れて行ってくれるのかと期待をしたが、どうやら別の電車に乗ってしまったみたいだ。
誰かもう一度かつての路線に連れ戻してはくれないだろうか。
