制作が始まったある日、野村芳太郎監督は脚本担当の橋本忍に指示を出した。
彼は何度も読み返し、原作ではほんの数行だった、犯人・和賀英良が幼い頃に父親
と全国を放浪するエピソードに目をつける。
ハンセン病の父と息子は村を追われ、全国を放浪する。行く先々で差別を受け、
石を投げつけられる。
それでも二人は体を寄せ合って旅を続ける。
和賀の犯行であることを説明する捜査会議に挿入されるこのシーンが、本作を
日本映画屈指の名作に押し上げた。
実をいうと、僕は日々の設計業務の中でこの手法を使っている。
以前ブログに書いたフレッセの設計競技を例にとると、要望事項をそのままプランニング
するとうまくまとまらず、つまらない案しか浮かばなかった。
そこで最後の方で申し訳なさそうに列記されていた、職員のための小さな会議室
に注目した。
ここを一番日当たりの良い、施設の顔ともいうべき正面に計画した。
すると、今まで考えたこともない風景が出現したのである。
この橋本忍が挑戦した課題に対するアプローチ方法を、僕は砂の器メソッドと呼んでいる。
(ちょっとカッコよすぎる?)
広く応用のきく手法だと思うのだが、どうだろうか。

和賀役を加藤剛が演じたものだから、最後まで憎めなかった。