2012年09月11日

寅次郎相合い傘

僕が二十歳の時に封切られた本作はシリーズ中最高傑作といわれ、マドンナは2度目の登場となる
リリー(浅丘ルリ子)だ。
もちろん寅さんとリリーの絡みも最高なのだが、僕は船越英二と岩崎加根子のシーンが好きだ。

出社拒否し放浪していた会社重役・兵頭謙次郎(船越英二)と出会った寅さんは、偶然再会した
リリーと3人で北海道を旅する。この珍道中でのエピソードが面白い。
やがて小樽に着くと謙次郎が、この地に住むかつての恋人と30年振りに会いたいと言い出す。
寅さんに背中を押され、今は未亡人となった信子の経営する喫茶店を探し出す。

店に入っていきカウンターに座る謙次郎。
中で甲斐甲斐しく働く信子。店内は若いお客で混んでいる。
珈琲を注文するが、こちらに気づかない様子だ。やがて野球姿の息子が奥から出てくる。
それを感慨深げに見つめる謙次郎。それでも信子は気づかない。来たことを後悔する謙次郎。
新たに客が来たのを汐に、逃げるように店を出る。が、席に鞄を置いてきたことに気づく。
もう一度入ろうかと逡巡していると、信子がそれを持って出てくる。
『すいません・・・。』
『謙次郎さんでしょ。』  バックに切ないギター曲が流れる。
『ぇっ、お分かりですか。』
『お店に入ってらした時、すぐ分かりましたわ・・。あなた、ちっとも変わらないのねえ。』
『僕はてっきり覚えていないんだとばっかり。』
『あのぅ・・・もう一度お入りになりません?』

謙次郎は汽車の時間があるからと断り、
『どうぞお幸せに・・・』と言って立ち去る。
これで謙次郎と信子の物語は終わる。

長々と書いたが、このシーンに山田洋次のセンスの良さがとても現れているように思うのだ。
寅さんシリーズが48作も続いたのは、この清潔さにあると思う。
昔の恋愛を今に持ち越さずあっさりと終わらせる、焼けぼっくいに火がつくと下品になる、
と考えたんじゃないだろうか。

この2年あとに『幸せの黄色いハンカチ』を製作する、まさに脂が乗りきった頃の傑作だ。

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『あなた、ちっとも変わらないのねえ。』
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『僕はてっきり覚えていないんだとばっかり。』

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posted by @せ at 00:09| Comment(0) | 映画だっ! | 更新情報をチェックする
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