三角関係のもつれから、老人施設で刃傷事件が起きることがある。
それほど嫉妬というものは厄介で、歳を重ねても枯れることはないのだろう。
才能に対する妬みもそれ以上に深刻であることを、この映画は教えてくれる。
(もちろんテーマはこれだけでは無いが。)
「ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト・・・」
自殺を図り、精神病院に運ばれたアントニオ・サリエリ(F・エイブラハム)は、神父に一体誰を殺したのか
と問われ、重い口を開く。
天才ゆえに、誰からもその音楽が理解されないモーツァルト(トム・ハルス)を唯一崇拝していたのは、
サリエリだった。
しかし、いつしかその天賦の才に嫉妬を感じ、彼を殺そうと目論むようになる。
この作品にはいくつかの見せ場があるが、モーツァルトの妻であるコンスタンツェが、夫に仕事を世話
してほしいと頼みに来るシーンが秀逸だ。
彼女にスコアを見せて欲しいと頼み、一枚づつ食い入るように見つめるサリエリ。
モーツァルトによるオリジナルの譜面には、たった一箇所の書き直しもない。
完全に頭の中で出来上がっているのだ。
そして彼の紡ぎ出す音は神の声そのものである。敬虔なクリスチャンだったサリエリは、そこで神と対峙する道を選ぶ。「あんたの作ったあの怪物を叩き壊してやる。」と。
音楽に生涯を捧げ、妻も娶らず勤勉に創作するサリエリと、無礼で下品で女癖の悪い、まるで子供のような
モーツァルトとの対比が見事である。
映画は一度観れば十分なものと、何度も体験したくなるものと2種類に別れる。
間違いなく『アマデウス』は後者に属する傑作である。
