駅の改札も不要かもしれません。」(日経アーキテクチャ2012・9-25号P4)
チームラボ社長・猪子寿之氏は、空間や都市もスマートフォンと同様にネットワークとソフトウェアに付随してハードを設計しなければ本質的なイノベーションは生まれない、と説き上記の発言となる。
IT業界の寵児と言われるだけあって、氏の考えは示唆に富んでいる。確かに、社会は近い未来そうなっていくのかも知れない。
だが建築設計者の端くれとしては、本当にそれでいいのかと思うのだ。
図書館は本を借りるだけの場所ではない。本に囲まれた空間に身を置きたい、馴染みの人に会いたい、美人の職員と話したいと思って通う人もいるだろう。
朝夕に改札の駅員さんと交わす挨拶を楽しみにしている人がいるかも知れない。
レジを通さない買い物が可能になれば、店員さんとの会話が減るのは間違いない。
目的以外のところに、人は喜びを見出しているものだ。
人は他者との関係なくしては生きられない。
これから迎える超高齢化社会においては、ますますそれが肝要になってくる。
デジタル社会におけるコミニュケーションとはどうあるべきかが、まず問われねばならない。
デジタル社会とは1か0の世界である。目的を持っている場合には即座に機能する。
だが生身の世界においては、必ずしも目的があるとは限らない。
偶然ある作家の著作を本棚で発見することがあるのは、図書館という物理的な空間のおかげである。
散歩の途中、細い路地に洒落た喫茶店を見つけることもある。
どこまでそういったアナログ的な喜びや感動を残せるかが、これからドラスティックに変貌しようとしている都市・建築のテーマになっていくのではないだろうか。

G・アスプルンド設計の図書館