遺作を撮ろうと思っている監督はいないはずなので、最晩年の境地を観るということになる。
それが今までの作品の延長上にある人と、全く新しい色合いのものになっている人もいる。
永年ずぅーっと暖めてきた企画をやっと実現したS・キューブリックのような監督もいる。
それを観ることで、創造者が最後に辿り着いた彼岸を追体験出来るような気がするのだ。
黒澤明 『まあだだよ』

実をいうと『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』には及ばないが、かなり好きな作品だ。
内田百閒の随筆を原案にして自ら脚本を書いている。
内田先生と彼を慕う生徒たちとの永年に渡る交流を、戦争を挟んだ時代を背景に描いている。
監督は時々社会派の映画を撮りたがり、特に原爆を扱った作品が目につく。
だがここには、そういった要素は影を潜め、内田百閒の人間性を全面的に肯定した賛歌のようである。
まるで肩に力が入っていないかのようだ。
ラスト近く先生が教え子の子供たちに、「好きなことを見つけなさい。そして見つかったら、一生懸命努力しなさい。」
と言うシーンがある。
これは監督自身が若い世代に残したかった言葉なのだろう。
この作品の公開後、1998年9月6日に脳卒中により亡くなっている。