2012年11月19日

『自尊を弦の響きにのせて』

『自尊を弦の響きにのせて』を昨日、徳島ホールで観てきた。現在96歳の日本を代表するチェリスト青木十良が、バッハ無伴奏チェロ組曲を録音するまでの6年間を追ったドキュメンタリーで、老いや病気と闘いながら見事やり遂げるまでを描いている。

16歳の天才チェリスト・ 堀江牧生との対話や宮城まり子との交流、ヴァイオリニスト・森 悠子との音楽論が、門外漢の僕にも楽しめる。
今でもチェロの美しい音色を追い求めていて、堀江に弓は弦に乗せるだけでいいんだ、力を加えるなと諭す場面がある。ヴァイオリンを嗜んだことのある妻は「分かるけど、よう弾かん」と言っていた。

老いるほどに深くなっていくその姿を見ていると、年をとるのが怖くなくなった。





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2012年11月13日

監督は最後に何を撮ったのか。 その2


小津安二郎 『秋刀魚の味』
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これほどまでに自分のスタイルを貫いた作家も珍しい。ストーリーがすぐに浮かばないほど、作品はどれも似通っている。
A・モディリアーニの絵画はどれも同じように見えるが、ひとつひとつ違っていてそれぞれ魅力に溢れいている。被写体の内面が写し出されているから、決して同じものはないのだ。
小津も同様である。家族にまつわるテーマを、飽きもせず何度も映像化している。そして人々の心を捉えて離さない。
遺作となった本作品も、娘の縁談というたいしたドラマ性もないテーマだが、小津らしさが隅々まで発揮されている。そしていつも思うのだが、日本人の美しさ、特に言葉の美しさが存分に描かれている。
若い頃は‘小津’というだけで敬遠していた。保守的で新鮮味がなく、細々とした日常を描くだけの私小説的な作りがうんざりだった。
だが、小津の世界にいつの間にか共感していることに気付く。
それがいつなのかは思い出せないが、とにかくどっぷりと浸ってしまった自分がそこにいるのだ。

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2012年11月10日

監督は最後に何を撮ったのか。 その1


遺作を撮ろうと思っている監督はいないはずなので、最晩年の境地を観るということになる。
それが今までの作品の延長上にある人と、全く新しい色合いのものになっている人もいる。
永年ずぅーっと暖めてきた企画をやっと実現したS・キューブリックのような監督もいる。
それを観ることで、創造者が最後に辿り着いた彼岸を追体験出来るような気がするのだ。

黒澤明 『まあだだよ』
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実をいうと『七人の侍』や『隠し砦の三悪人』には及ばないが、かなり好きな作品だ。
内田百閒の随筆を原案にして自ら脚本を書いている。
内田先生と彼を慕う生徒たちとの永年に渡る交流を、戦争を挟んだ時代を背景に描いている。

監督は時々社会派の映画を撮りたがり、特に原爆を扱った作品が目につく。
だがここには、そういった要素は影を潜め、内田百閒の人間性を全面的に肯定した賛歌のようである。
まるで肩に力が入っていないかのようだ。
ラスト近く先生が教え子の子供たちに、「好きなことを見つけなさい。そして見つかったら、一生懸命努力しなさい。」
と言うシーンがある。
これは監督自身が若い世代に残したかった言葉なのだろう。

この作品の公開後、1998年9月6日に脳卒中により亡くなっている。

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